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【小さな独占からはじめよ】ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか(ピーター・ティール・著 関美和・訳)

ピーター・ティールは、「ペイパル・マフィア」の中の「ドン」らしい。 「影の大統領」などとも呼ばれているらしい。 そんな噂を聞いて、一体どんな人物なのだろうと興味が湧いた。

ワーママはるさんのVoicyにて、「内向的な人と外向的な人の差と起業家から考える」というテーマで語っておられた。

https://voicy.jp/channel/862/170702

確かにシリコンバレーの企業家といえば、メディアに登場したり、何冊も本が出版されていたりと表向きに注目されることが多い。
イーロン・マスクなんて、発言するたびにビットコイン価格が乱高下している。
一方でピーター・ティールという人はメディアへの露出という意味では他のGAFAM創業者と比べて少なく、私自身も存在を知らなかった。 けれども実はPayPal、Facebookの創業に関わっている重要人物らしい。

内向的な起業家って一体どんな思想を持っているのだろうか。
そんな疑問から本書を手にとってみた。

小さな独占からはじめよ

本書の強いメッセージとして「独占せよ」というものがある。 ほとんどの企業は「完全競争」と「独占」のどちらかに属していて、その間には天と地ほどの差がある。 完全競争化では、すべての収益が消滅する。

いやまて。 するとSWOT分析などで競合との差異を分析することなどは意味を成さないのだろうか。 競合他社との違いを出すことで優位性を確保し、勝ち抜くビジネスというのはもはや旧時代的な考え方になるのだろうか。

確かに事例として挙げられているAmazonやGoogleの「独占の手法」を知れば、著者の言っていることは正しい。 市場独占があれば、政府側から規制をかけようという動きが強まるのがセオリーだが、この罠をくぐり抜けていることが”ミソ”なのだという。

Amazonは”他店舗の10倍”の在庫を持つ大型書店という「書籍流通の独占」からスタートし、そこからCD/DVD/ソフトウェア、日用品とあらゆる分野の流通へと手を広げた。

けれども私が知りたいのは、そんな巨大企業の「独占手法」ではない。 我々がビジネスをするために「小さな独占」を起こすにはどうすればよいかということだ。

そこで次に考慮すべきは、世の中は「べき乗則」の世界に変わっているということだ。

人はなぜ「べき乗則」に気づかないのか

「べき乗則」については、橘玲氏の著作でも何度も述べられていて、説明が詳しい。 “ベルカーブ型(正規分布)からロングテール型(べき分布)への変化”と、述べていることは同義ととらえた。

▼「残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法」などに詳しい

本書で新鮮だったのは、ポートフォリオ分散投資はやめときなと言っている点である。
この点は他の投資本とは一線を画す論点だと思う。

でも、人生はポートフォリオじゃない ── スタートアップの創業者だろうと、誰であろうと。起業家は自分自身を「分散」できない。ひとりで何十社も同時に経営できないし、その中のひとつがうまくいけばいいと祈ることもできない。もっと言えば、等しく可能性のあるキャリアをいくつも同時に進めて、人生を分散させることもできない。

この文章はシビレますね。
確かに人生でアイデアを行動に移そうとするのであれば、そこには時間もかかるし、労力もかかる。 優れたアイデアのみがあっても、有志を集めて「チーム」ができなければ、何かにチャレンジすることなどできない。

また、ひとつの戦略に賭けて全力でチャレンジするという方が、人生としてはおもしろいのではないか。
それで「べき乗則の法則」に即して軌道に乗れば、言うことなし。

内向的起業家らしい格言の数々

まとめると、著者の主張は下記のようにとらえた。

  1. まずは自分のチャレンジできる分野で、小さな独占から始めてみよう
  2. 無計画になんでもチャレンジするというポートフォリオ戦略ではダメ。ひとつの戦略に大胆に賭けよ。
  3. 「べき乗則」に乗ることができるかを常に考える。完全競争に陥れば、収益は消滅するのだから。
  4. ゼロからイチをつくろうとするならば、プロダクトが勝手に売れていくことなどありえない。販売戦略をたてよ。

本書より、最後の言葉を引用する。

今僕たちにできるのは、新しいものを生み出す一度限りの方法を見つけ、ただこれまでと違う未来ではなく、より良い未来を創ること ── つまりゼロから1を生み出すことだ。そのための第一歩は、自分の頭で考えることだ。古代人が初めて世界を見た時のような新鮮さと違和感を持って、あらためて世界を見ることで、僕たちは世界を創り直し、未来にそれを残すことができる。

流石に「内向的起業家」らしい格言が満載の書だった。
まずは「小さな独占」のアイデアを貯めることからはじめてみよう。