ポール・ゴーギャンはフィンセント・ファン・ゴッホと並ぶポスト印象派のフランス人画家として世界的に知られている。けれども名画の輝きとは対照的に、その生涯は破滅的な一途をたどるものだった。
本書はゴーギャンと、その祖母である革命家フローラ・トリスタンの生涯を追った物語である。 著者はラテンアメリカ文学の旗手であり、2010年にノーベル文学賞を受賞したマリオ・バルガス=リョサ。 フローラの没後にゴーギャンが生まれており、ふたりは存命中に知り合うことはなかったが、”人生の楽園を求めて旅をした”という点では、生き方に共通している部分がある。 リョサはこの点に注目して、奇数章ではフローラ・トリスタンを、偶数章ではポール・ゴーギャンを取り上げてひとつの物語を編纂した。
タヒチにゴーギャンの楽園はあったか
ゴーギャンは30代の半ばまで株式仲買人の仕事をしており、妻メットと5人の子をもつ裕福な家庭を築いていた。 当時は「ブルジョワ」と呼ばれる身分であったが、友人に絵を描くことを習い始めたことをきっかけに美学芸術へと傾倒していく。”絵を描くこと”に夢中になった彼は、仕事と家族を捨てて無一文なジプシー画家となり、”芸術家にとっての楽園”を目指して放浪の旅をはじめる。 パリからアルルへ移り、ゴッホと共同生活を始めるがうまくいかず、やがては活動の場を南太平洋諸島フランス領のタヒチ島に移して暮らすようになる。
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