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【忘れられた歴史的フェスのドキュメントをみた】サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)

ブラックミュージックのドキュメンタリー映画が全国ロードショーなんて、いつぶりだろうか。 わざわざ京都や大阪に出向かずとも近所で上映されるということで、サクッと観に行ってきた。

時代はウッドストック・フェスティバルの行われた1969年夏。ジミヘンがアメリカ国家を自慢のストラトでかき鳴らしていたころのこと。 ニューヨーク・ハーレムでは黒人ミュージシャンのスターたちが集結し、30万人を動員するとんでもない無料開放フェスが行われていた。

フェスの名は「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」。
監督は「クエスト・ラブ」。

これだけの内容で、音楽ファンとしては見過ごすわけにはいかなかった。

▼映画チラシ

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スライ・ストーンとニーナ・シモン

まずは予告編をみてほしい。 ニーナ・シモンのポエットリーディングに対して、呼応する観客たちが異様な熱気を帯びている。


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この空気感が映画全編を貫いているといっていい。

若き日のスティーヴィー・ワンダーにはじまり、BB・キング、フィフス・ディメンション、グラディス・ナイトなど当時のスターたちが次々と登場する。 ゴスペルでは、マヘリヤ・ジャクソンの熱唱が印象的。(歯抜けでつばが飛んできそうなぐらい顔面どアップ!)

モンゴ・サンタマリア、マックス・ローチ、ロイ・エアーズ、レイ・バレットらも楽しく演奏していて、グルーヴィーなジャズ好きにもたまらない。

けれども、なんといってもこの映画の主役は、スライ・ストーンとニーナ・シモンだろう。

「Higher!!」で拳を突き上げるスライ・ストーンは、カリスマ性の塊のような存在で、見ているだけで勇気をもらえる。 メンバーは、黒人、白人、男女ミックスで、「人種なんて、性別なんて、音楽やるのに関係あるの?」とでも言っているよう。 当時の観客と一体化した気分になって、「ハイヤー!」と叫びたくなる。

映画の終盤、「Young, Gifted and Black」を静かに歌い上げるニーナ・シモンの姿は、力強く神々しくもあり、感動を覚える。 黒人であり、女性であるという「弱い立場」にあっても、「あなたは若く才能があるのだよ、がんばろうよ。」と静かに鼓舞してくれる。

月面着陸よりフェスティバル

「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」の最中に、人類は月面着陸に成功し、全世界でテレビ放映が起こっていたようである。

「アポロを見ずに何をしているのか?」と質問するリポーターに対し、 「月には何もないが、ここには助けが必要な人々がいる」と答える若者観客の姿がある。

Revolution Will Not Be Televised !!

映画の副題は、ギル・スコット・ヘロンの同名曲を意識したのだろうか。 ここには、監督クエスト・ラブの伝えたかったメッセージが詰まっているように思う。


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ケネディ、キング牧師、マルコムXというアメリカの希望となる人たちが次々と暗殺され、 何を拠り所にすればいいか、メインカルチャーにもカウンターカルチャーにも迷いがあった。

そこで時代は音楽の力を借りることにした。

メインカルチャーではウッドストック・フェスティバルが開かれ、ロックスター達が演奏した。 カウンターカルチャーではハーレム・カルチュラル・フェスティバルが開かれ、ブラックスターたちが演奏した。

けれども、片方は今になってビデオテープが発掘されるまで、歴史もろとも葬り去られてしまっていた。 誰かにとって都合の良い歴史は残り、誰かにとって都合の悪い歴史は忘れ去られる。

映画の中の若きスティーヴィー・ワンダーは、メインストリームとアンダーグラウンド・カルチャーの狭間で、 自分はどちらに属すべきなのだろうと気持ちが揺れ動いていた。

私たちがテレビやYou Tubeで見れる音楽の映像なんて、歴史のほんの一部でしかないのだよ。

ブラックカルチャーの変遷を常に前線で捉えてきたであろう「監督・クエストラブ」が そんな事実をそっと教えてくれているような、そんな映画だった。

2021/10/3