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今日は街へ、明日は村へ。その場所で思ったことを綴ります。

【ナラティブ・アプローチ実践】やる気を引き出し、人を動かす リーダーの現場力(迫俊亮・著)

全国に300店舗を展開する靴とバッグの修理店「ミスター・ミニット」の社長である迫俊亮氏の経営奮闘記。 ベンチャー企業のマザーハウスで経験を積み、ミニット・アジア・パシフィック社に入社。29歳で代表取締役社長に就任したときの経営状況は10年連続右肩下がりと散々たるものだった。そこからどのように立て直しを行ったのか。 答えはタイトルの通り、「リーダーの現場力」にあったのだ。

ナラティブアプローチの実践本

なぜ本書を手にとったかというと、『他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論 』(宇田川元一・著 / NewsPicksパブリッシング)で紹介されていたからである。

「他社と働く」を読んでナラティブ・アプローチの骨子は学んだつもりだったが、いざ仕事の現場に立ってみると、「では具体的に何をすればいいの?」という実践の部分で疑問が解消されない。 そこで、実際にビジネスの現場で奮闘している人の本を読みたいと思ったわけである。

迫さんは、いったいどのようにして、「組織の溝に橋を架ける」ことができたのだろうか? 本書にはそのヒントとなるアイデアがあふれていた。

〈ナラティブ・アプローチとは〉
組織が知識・技術だけでは解決できない「適応課題」に直面した時、自分と相手との溝に橋をかけること。 相互のコミュニケーションを通じて自分のナラティブと相手のナラティブをよく理解し、従来の枠組みを客観化・相対化して、より良い新たな関係性を構築しようとする取組のことを指す。

↓NewsPicks/noteにまとめられた記事がわかりやすい。

note.com

現場へのリスペクトを心から示す

”腐っているのは現場でも経営でもなく、現場と経営をつなぐパイプ だ。必要なのはこの配管工事だ”

ミスター・ミニットの現状をみてそう確信した迫さんは、「答えは現場にある」ことを信じて店舗へ通うようになる。 しかし、そこでひょっとしたことから恥ずかしい目にあってしまう。 店舗の現場スタッフは、清潔感がものを言う職業のため、ヒゲを生やすことは禁止されている。 しかし迫さんは当時オシャレのためヒゲをたくわえていた。 プロ経営者としてメンター役を担っていた澤田貴司さんより、すかさず指摘が入る。

「ところでお前は、なぜ現場で禁止されている恰好を堂々としているんだ?」

現場に本当にリスペクトや愛があるならば、それは態度で示さなければいけない。 それが「相手との溝に気づく」ことの第一歩なのかもしれない。

組織の中に小さな逆三角形を無数につくる

「なぜ10年以上業績が下がり続けていた会社を立て直せたのですか?」

いままで何回も聞かれてきた質問に対し、迫さんはひとつの考えがうまくいったからではと振り返る。

それは、”「現場と経営の三角形」をひっくり返す”という発想だ。

一般的な企業であれば、経営からは現場へ向けてトップダウンで「命令」が出される。 経営側が決めた「経営方針」に対して、現場が対応していくというシステムだ。 ところが、ミスター・ミニットではこの逆を目指した。

経営が現場を「サポート」する。

リーダーは先頭に立ってみんなを引っ張るのではなく、現場から情報を取り入れ、学び一緒に戦略を立て、現場に任せてサポートするのだ。 たくさんの現場に立つ人をリーダーが支えているような構図を、著者は「逆三角形型」と表現する。

  • 1人のリーダーが「CARE」する人数をできるだけ減らすこと。
  • 「リーダーと5人程度の小さな三角形」を組織の中に無数につくること。

〈リーダーに任せるために必要な「CARE」とは〉
C=当人の能力に合わせてフォローアップし(Capability)
A=適切かつ思い切った権限委譲を行い(Authority)
R=その責任を明確にしたうで(Responsibility)
E=納得のいく評価とフィードバックが高頻度でなされること(Evaluation)

迫さんは、軽管理部門の人間を減らして、現場リーダーを3倍にまで増やした。 これはミスター・ミニットが店舗型の経営だからこそ取られた戦略なのかもしれない。 けれども、どのような組織であっても、”リーダーやマネージャーが現場を支える”という発想は、当たり前でありながら抜け落ちてはいけないものだと考える。

「ふつうの会社」を変えるには

本書はGAFAのような外資系「エクセレントカンパニー」を題材にしたものではなく、またなにか特別なイノベーションを起こして会社が変えたプロフェッショナルを紹介するような本でもない。 あくまで「ふつうの会社」で何ができるのかをテーマに書かれている。

けれども考えてみれば、日本で働く人たちの大部分は、『他社と働く』で取り上げられた「適用課題」に直面している「ふつうの会社」で働いているはずだ。

そんな場所で孤軍奮闘しているリーダーに向けて。 本書はより身近で実践的な経営のヒントを得るための恰好のビジネス本であると感じた。

2021/9/25