2022年2月2日にオープンした「大阪中之島美術館」に行ってきた。
構想は約40年前の1983年。30年間の準備期間を経てやっと開館するという。 関西の美術ファンにとっても、大阪市民にとっても、念願だった美術館がついに完成したのだ。
「大阪中之島美術館」は、関西に新たに誕生したアートスポットとして、どんな展開をみせてくれるのだろう。 前半は「美術館とコレクション展示の全体像」について、後半は「期待する大阪中之島美術館像」について、まとめてみた。
ブラックキューブ建築に潜入
JR福島駅から徒歩で約15分ほどだった。 中之島リバーサイドを越えて、国立国際美術館へ向かって歩くと、以前はなかった漆黒の建物が見えてきた。 各種メディアで事前に見ていたブラックキューブ型の建築だが、中之島のモダンなビル群たちに意外にも溶け込んでいる。
人がいないときを見計らって、なんとか外観写真を撮ることができた。
5階建ての建物で、展示室は4階の5階の2フロアになる。 ホール、ワークショップルーム、多目的スペースにも面積が割かれているようだ。
建物内に入ってみる。
無機質でモダンな壁面は統一がある。 密室的でいて、モノクロームに映える空間。 写真を撮るにも、構図をつくりやすい。
チケット売場を経て、エレベータを登って展示室へ向かう。 この瞬間がとてもワクワクする。
Hello! Super Collection 超コレクション展 ―99のものがたり― 100個目のものがたり
さて展示会場へ。
国内外の近現代美術作品を6000点収蔵しており、その中の400点を今回展示するという。 中心となっている佐伯祐三作品をはじめ、バブル期にコレクションされた海外スターたちの作品も一堂に公開されていた。
1. コレクションの出発点である希代のコレクター・山本發
日本の近代絵画を中心に展示。 佐伯祐三作品群はコレクションの中心的な存在で、大阪市立美術館でも何度か企画展が開かれていた。 小出楢重や小磯良平ら、関西出身の日本近代画家の作品が見れるのがうれしい。 個人的に印象に残ったのは、前田藤四郎の版画作品。「リノカット」という技法が生かされていて、名品揃いだった。
▼佐伯祐三《郵便配達夫》 ポスターに掲載する主要作品は写真OKのよう
2. モディリアーニからバスキアまで、所蔵品を代表する作品が集結
近現代の著名海外作家の作品を中心に展示。 おそらくバブル期の日本がまだ”お金持ち”だった時代の基金で購入されたものだろう。 モディリアーニ、バスキアが目玉になっているが、ダリ、マグリットなど20世紀を代表する抽象画も展示されている。 個人的に好きだったのは、マーク・ロスコ《ボトルグリーンと深い赤》、モーリスルイス《オミクロン》だろうか。 この2作品はWEBやポスター上では良さが伝わらないので、ぜひ展示会場でみてほしい。 杉本博司、草間彌生、森村泰昌ら日本現代美術家の作品も、数点ずつだったが置かれていた。
▼モーリスルイス《オミクロン》 なんともタイムリーな作品名
3.クラシック・ポスター、家具コレクションも
サントリーポスターコレクションと、家具コレクションを中心に展示。 サントリーミュージアム天保山に所蔵されていたロートレックらのポスターが大阪市に寄付されたことで、コレクションに加わったようだ。 ポスター、家具コレクションがこれほど多くあるとは知らなかったので、意外だった。 家具のコレクションがまとまっているなら、工芸品のデザイナーが喜びそうな企画展も可能かもしれない。 出展作品400点を一度に鑑賞するというのはなかなかハードなもので、後半は少し息切れした。
▼主な展示作品
https://nakka-art.jp/untold-99-stories/
中間スペースでは中之島の街並みが見渡すことができ、リフレッシュできた。 この日は天気も良く、良い眺め。
【グッズ】佐伯祐三《郵便配達夫》パスケースがいい!
開館直後ということもあり、ミュージアムショップは賑わっていた。 大阪出身の松本セイジ氏による開館記念のイラストがあしらわれたグッズ群が目立っていた。 私も写真のパスケースを思わず買ってしまった。佐伯祐三《郵便配達夫》をモチーフにしたイラストがかわいらしい。 タブレットがちょうど入るサイズで気に入っている。
大阪中之島美術館に期待すること
2月11日の開館記念シンポジウムでは、日本の近現代美術館の目指すべき方向性について、熱い議論が交わされた。
アーティゾン美術館や愛知県立美術館の近況を聞くことで、大阪中之島美術館へ期待することがみえてきた。 パネリストの意見と重なる点もあるが、私は以下の3点を期待したい。
- 若手アーティストの収集
- 6000点のコレクションを生かした企画展示
- シンボルとなる名作の常設展示
若手アーティストの収集
愛知県立美術館では、3年間で3億円の予算を使って若手アーティストの作品をコレクションするプロジェクトを行っているようだ。 バブル期の日本が”お金持ち”だった時代は、海外の著名作品が気軽に買えたかもしれない。 しかし円安ドル高が進み、アートバブルが加熱する昨今、海外のコレクションが増えていくことに期待はできない。
ならば原点回帰で、関西の若手アーティストの作品をしっかり確保したほうがいいのは間違いない。 「アーティゾン美術館にとっての青木繁作品」のように、将来的に評価されるアーティストは、日本にも、関西にもきっといるはずだ。
6000点のコレクションを生かした企画展示
美術館設立時に6000点のコレクション数があるということは、それだけバリエーションある展示ができるということ。 4F,5Fと展示室の面積も広く、近現代美術の企画展もスペースを気にすることなく巡回できそうだ。
今年はモディリアーニ、岡本太郎とアーティスト単体での企画展が予定されているが、東京方面で開催された展示会もどんどん関西にやってきてほしい。むしろ、大阪市立美術館で開催された”メトロポリタン美術館展”のように、関西発で東京へ向かうような企画展が次々と行われることを期待したい。
シンボルとなる名画・名作の常設展示
「この美術館へ行けばこの作品に出会える」というような、定番の常設展示ができてほしい。 SOMPO美術館のゴッホ《ひまわり》のように、いつだって名画・名作を見られるというのは、観光スポットとしては大きな魅力になるだろう。 20世紀美術のコレクションも多いので、歴史を俯瞰できるような展示があってもおもしろいかもしれない。
個人的な意見をつらつらと書いてしまったが、このご時世にも関わらず展示は盛況で活気を感じた。 大阪の新アートスポットに多くの人が期待を寄せていることがうかがえた。
2022/02/19