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映画『コーダあいのうた』をみてきた

映画『コーダあいのうた』をみてきた。 主演のエミリア・ジョーンズの歌が伸びやかですばらしく、また登場する名曲の数々も楽しく、前評判通りの爽快な感動作だった。


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ハイライトは、最後に家族に向かって歌われる「Both Sides Now」だろうか。 以前から好きだったジョニ・ミッチェルの名曲が、映画をみたことでさらに好きになった。

「Both Sides Now」の歌詞に沿って、映画の感想を振り返ってみる。

憧れが「幻の雲」だったことに気づく時

私自身の体験を少し。
10代の後半から20代前半だった頃、音楽を追いかけることに夢中だった。

ラジオから流れてくる、センスのいいDJがセレクトした音楽。
メディアや雑誌で、好きなミュージシャンが影響を受けたと語っている音楽。
特にソウル・ミュージック、ブラックミュージックは奥が深くて、 バンドでベースを演奏するようになったこともあって、次第に音楽の沼にハマっていった。

映画でもマーヴィン・ゲイやアイズレイ・ブラザースの曲が登場する。 音楽のクラスでソウルミュージックが歌えるなんて、アメリカの授業は贅沢だ。

主人公ルビーはV先生に歌の才能を見抜かれ、気になる男子マイルズとデュエットをやるように命じられる。 面と向かうのが恥ずかしくて、背中合わせで練習するところが、ティーンらしく可愛らしくてキュンとする。

マイルズ役のフェルディア・ウォルシュ=ピーロは、「シング・ストリート未来へのうた」で主演を務めた子だったのだ。 あの映画も音楽の楽しさを伝えてくれるハッピーなストーリーだった。懐かしい。

V先生との修行の毎日を経て、音楽の道が開けたたかと思いきや、事はそううまく運ばない。 「CODA(Children of Deaf Adults)」である彼女の気持ちは、家族に理解されることもなく、やがて孤立を深めていく。

なんで私の道をやりたいように決めさせてくれない?
なんで私のがんばりを誰も応援してくれない?
一体どうすればいいんの!

そんな鬱憤を家族に向けてぶつけてしまう。

結局のところ、人はどちらかのサイドに立つことなんてできない。 この映画で言えば、「こちら側」が耳の聞こえる主人公だとすれば、「あちら側」の耳の聞こえない家族と完全に分かりあうことはできない。

置かれている立場が違う以上、彼らの気持ちはどうしたってわからないのだ。

ジョニ・ミッチェルは、そんな気持ちをこんな風に歌っている。

私は両側から雲を眺めて、上から見たり下から見たりするけれど
それは幻の記憶で、雲のことは何もわからない

Joni Mitchell - Both Sides Now

Verse 1

Rows and flows of angel hair And ice cream castles in the air
And feather canyons everywhere I've looked at clouds that way

流れるように美しい天使の髪や アイスクリームのお城がフワフワと浮かんでいて
羽毛に覆われたような谷がどこまでも続いている わたしは、そんな風に雲を見ていた

But now they only block the sun They rain and they snow on everyone So many things I would have done But clouds got in my way

だけど、雲は太陽を遮り 人々に雨や雪を降らせ
わたしがやろうと思っていたたくさんのことも 雲によって閉ざされた

I've looked at clouds from both sides now From up and down, and still somehow
It's cloud illusions I recall I really don't know clouds at all

わたしは今、その両側から雲を眺めてみる 上から見たり、下から見たり、
でもどういうわけか
それは幻の雲の記憶で わたしには雲のことは何もわからない

愛や人生は、「幻の雲」みたいに掴みどころないもの

それでも、やがては自分で道を決めないといけない時がくる。

歌を披露するステージも、音楽学校の試験も近づいてくる。
家族との関係も、ボーイフレンドのとの関係も取り戻さなければならない。
青春の時間は限られているのだ。

ルビーは、マイルズと崖からバンジージャンプして仲直りすることを試みる。
卒業したら家業を手伝うことを決意する。

けれども、気持ちの整理がつかないまま下した選択は見破られるものだ。
V先生や兄レオは、ルビーの「中途半端な決意」に対して憤慨する。

本当にその道でいいと思っているのか。
もっと自分の納得いくまで考えろ。

人生を両サイドから見てみても何かがわかるわけではない。
どの選択をすれば勝てるのか、それとも負けるのか。
どの立場でいれば、愛し愛され続けることができるのか。

愛や人生なんて、「幻の雲」みたいなもので、どこから眺めてみてもわからないことだらけだ。 だから、どちらかのサイドに立って、懸命に進んでいくしかないのだ。

ルビーは試験のラストシーンで自らの体験に沿うように「Both Sides Now」を伸びやかに歌う。 家族に向けて。家族に伝わるように手話を交えて。
歌声は聞こえないかもしれないけれど、歌をメッセージとともに届けることはできるのだ。

家族から離れて独り立ちするときの一場面は、誰にとっても青春のハイライトだったに違いない。 その場面を思い出させてくれるような、ちょっと甘酸っぱいけれど清々しい、そんな映画でした。


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Joni Mitchell - Both Sides Now

Verse 3

Tears and fears and feeling proud To say "I love you" right out loud
Dreams and schemes and circus crowds I've looked at life that way

涙と不安、それでも誇りを持って わたしは「愛してる」って大声で言う
夢いっぱいの構成、そしてそこにはサーカスの観客 わたしは、そんな風に人生をみていた

Oh but now old friends they're acting strange And they shake their heads
And they tell me(said) that I've changed Well something's lost but something's gained In living every day

ところが今、古くからの友人たちがすることといえば、おかしなことばかり 彼らは左右に頭を振って「あなたは変わった」と私に言う
そうね、毎日暮らしていれば、 失ったものもあれば、得たものもある

I've looked at life from both sides now From win and lose and still somehow
It's life's illusions I recall I really don't know life at all

わたしは今、その両側から人生を眺めてみる 勝つか負けるか…  でもどういうわけか
それは幻の人生の記憶で  わたしには人生のことはなにもわからない

It's life's illusions I recall
I really don't know life
I really don't know life at all

それは幻のような記憶で 私には人生のことはわからない
人生については、本当になにもわかっていなかった 

歌詞の和訳は下記ブログより引用させていただきました。

和訳 Joni Mitchell “Both Sides Now” : マイケルと読書と、、 https://nikkidoku.exblog.jp/19751284