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【1億総反応時代を生き抜く方法】自分の意見で生きていこう(ちきりん・著)

発売前から楽しみにしていた1冊だ。

毎日の10分間Voicyも絶好調なちきりん氏による、「現代を生きぬくための根幹の能力」を解説するベストセラーシリーズ。 最新作であり、4部作の完結作。

まるで自らのノウハウの手の内を明かすかのように「自分の意見を言うこと」に関してわかりやすく説明してくれていて、あっという間に1冊読めてしまった。

ネット上の発言の9割は”意見”ではなく”反応”

SNSが登場してからというもの、ネット上にはこの10年ぐらいで爆発的に情報量が増えた。

旧来のブログやFacebookをはじめ、Twitter、Instagram、Tik Tokなどなど。

ここには様々な意見が集まっているように見えて、実はそのほとんどが「意見」ではなくて、単なる「反応」であると言い切る。

ところがネット時代となって、この関係は一変しました。誰でも「発信者」になれるようになったからです。 ただし、「誰でも発信できる時代」であっても、すべての人が意見を発信しているわけではありません。実はネット上では、大半の人は意見など発信しておらず、単に誰かの意見に「反応」しているだけです。ネット上で意見を発信している人なんて、比率でいえば1割にも満たないのではないでしょう。


つまり現在は「1億総発信時代」などではなく、より正確には「1億総反応時代」なのです。

1億総反応時代というのは、今に始まったことでもなくて、一昔前ならばテレビの前でつぶやいていたことが、ただSNS上に反映されるようになっただけという。しかも反応は「いいね!」や「リツイート」「絵文字」などでよく、考える労力は最小限で済む。

ネット上では、「意見と意見をぶつけ合って議論しているように見える」場合でも、実際には「意見を表明した人に、多くの反応がぶつけられているだけ」という状態になってしまっている。SNS上での「炎上」なんてまさにその最たる現象で、立場を明確にして意見を言う人がいるからこそ、多くの「反応」が集まるのだ。著者はネット上でインフルエンサーが生まれるプロセスをこう説明している。

<インフルエンサーが生まれるプロセス>
1. 継続してさまざまなことに意見を表明する
2. 人格(キャラ)が伝わる
3. ファンができる

「反応」はいくら集まっても人格を形成しないが、一定以上の「意見」が集まると、人格を形成し始める。 著者のちきりん氏はその代表格で、ご本人が言っているのだからさらに説得力がある。

私たちが”外資系出身の社会派ブロガー”という肩書しか知らないにもかかわらずちきりん氏をフォローしてしまうのは、10年以上にも及ぶブログ記事と、何冊かの著作と、毎日のVoicyの集合体が、「人格を持っている」からであり、いつの間にかその「人格のファンになっている」からである

意見の発信者は発信者を呼ぶ

意見を発信し続けることがなぜそんなに重要なのか。 本書ではその理由を、「自分がどんな人なのか、分かってもらうため」だと説明している。

今までは学歴や職歴など、「肩書」がその人のパーソナリティーを判断する要素になっていた。 けれども、これからの時代は学歴や職歴だけではなく、「ネット人格」も重要になっていくかもしれない。

では具体的に、どんな発信者を目指せばいいのだろう。

著者はVoicy上で注目しているパーソナリティーに直接インタビューを行い、「注目する発信者」を紹介している。 三人とも個性的な方で、その魅力が存分に引き出されたインタビューになっていた。

2022/1/17 #463 私が聴いてるパーソナリティーさんをご紹介 1 - ちきりん @InsideCHIKIRIN

一人目は、独立農家のとまたろうさん。
農家のリアルを取り上げていて、同じく第一次産業で苦心している身として参考になる。 「JAに買い叩かれて農家が食っていけないのは、僕らの発信力が足りてないから」とバッサリ言い切ってしまうところに、農家発信者としての使命感を感じた。

2022/1/22 #468 私が聴いてるパーソナリティーさんをご紹介 2 - ちきりん @InsideCHIKIRIN

二人目は、虹色の朝陽さん。 自閉症のお子さんをもつお母さんによる発信で、その勇気ある活動が、同じ悩みを持つような親御さんたちの共感を呼んでいる。

2022/1/24 #470 私が聴いてるパーソナリティーさんをご紹介 3 - ちきりん @InsideCHIKIRIN

三人目は、妄想する決算のコージさん。 質問に対する受け答えがぶっ飛びすぎていて、世の中にこんなにも斬新な考えで生きている人がいるのだと、その思考スケールの大きさに驚いた。 10分で決算書をぶった切るテンポの良さとアフタートークの天然エピソードの落差が絶妙。

インタビューを聞いていると、重要なのは肩書ではなくて、発信スタンスであることが伝わってくる。 3人ともはじめて知った人だけれど、発信を継続されているからこそ、注目を集めていくのだ。

反応を恐れずに「意見する人」は、同じように「意見する人」から注目されるようになる。 そしてメディアでの発信がまた反応を呼び、発信内容がさらに説得力を増していく。

リアル社会でもポジションを取ることを恐れない

話を自分ごとに移して考えてみる。

ネット社会でもリアル社会であっても、「意見をちゃんと言おう」と思っても、実際にはその勇気が持てないことだってある。 実際、10年間のサラリーマン生活を振り返ってみても、反応を恐れずに意見を言えた経験ってあんまりない。

前いた会社では、社内にイノベイティブな「革新派」と、従来の方針を守るべきとする「保守派」がいて、どちらの方針でいくか議論されることがあった。そんな時、どちらかの側に立って意見を言うことは苦手だった。 立場を表明することによる反対が恐かったのだ。 どちらの側にもつかずに、双方の意見を汲み取るようにして物事を進める方が、気持ちの面でラクで、しかも好印象を持たれるように感じた。 そして、なぜか人から反対を受けないスタンスでいた方が、うまく事が進んだりした。(これは日本型組織が”調和を重んじる”とすることの弊害なのだろう)

けれども、独立してみて、これではいけないと思うようになった。 今までのように、「この人の意見に従っていればうまくいく」というような、正解らしい道を描くことができなくなったからだ。

自分の意見を発信していかなければ、誰も意見をぶつけてはくれなくなる。 衝突がない世界は平和かもしれないが、誰かに刺激を受けることも、影響を与えることもなくなってしまう。

誰も意見してくれない世界ほど恐いものはない。

そう考えると、ネット社会と同じようにリアル社会でも「ポジションを取ること」と「意見を表明すること」は必要なのだ。

意見が対立して少しぐらい反発されてもいい。
ネット上でクソリプを食らってもかまわない。

反応がたくさんあったということは、自分は意見が言えたのだと考えてみる。

まだまだ道のりは遠そうだけれど、まずはスタンスを明確にすることからはじめてみよう。

2022/01/29