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【人気YouTuberの選書術】OUTPUT読書術(アバタロー・著)


低音ボイスの”ええ声”で名著を解説してくれる大好きなYou Tubeチャンネル「アバタロー」さんの初の著書。 私が初めてこのチャンネルに出会ったのは、確か岡本太郎氏の「自分の中に毒を持て」の20分解説動画だったと記憶している。

まるで岡本太郎が乗り移って語りかけてくるような情熱的な朗読に心打たれ、すぐに書店に本を買いに行ったことを思い出す。 そのアバタローさんが本を出されたということで、これは読まなくてはと購入に至った。

自己肯定感を上げる OUTPUT読書術

自己肯定感を上げる OUTPUT読書術

  • 作者:アバタロー
  • クロスメディア・パブリッシング(インプレス)
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著者が他の幾多の本解説YouTuberと違っている点は、「選書」にあると思っている。

解説で取り上げられる本は、古今東西の名著を基本としながら近年出版されたビジネス書の回もあり、「選書の基準」がわからなかった。 本書でその謎が解ければと思い、読み始めた。

読書は食事である

まずはじめに、読書の心得とは食事の心得のようなものと説かれる。

〈読書の心得〉
- 栄養価の高い良質な食材(本)の選び方
- 手に入れた食材(本)を美味しくいただく調理方法
- 食材(本)に含まれた栄養に関する知識、そして効率よく吸収させる工夫

良質な食材を、適切な調理により、効率的に摂取できるからこそ、読書は有用なのだという。 確かに、添加物まみれの食材を、レンジなどで適当に調理し、非効率な摂取を続けているといずれ体を壊してしまうだろう。

人生100年時代を生きるならば、栄養を摂取するように、良質な本のエッセンスを吸収し続ける必要があるのかもしれない。 しかし、書店へ行けば新刊書が山のように積まれる中、そのどれもが良質であるとは限らない。 著者はどのようにして、「良質な食材」を選んでいるのだろうか。

ウォーレン・バフェット流「投資的選書」とは

第4章「絶対に失敗しない選書の方法論」には、その”選書術”が書かれている。 選書方法は大きく2つに分かれるという。

  1. 投資家的選書
  2. 直感的選書

投資的選書

投資的選書とは、自分の目的を最優先する読書だという。 この手法では、世界一の投資家であるというウォーレンバフェットの投資に対する考え方を参考にするという。

〈ウォーレン・バフェットの事業投資における考え方〉
1. シンプルで理解できる事業であること
2. 安定した事業実績があること
3. 長期的に明るい見通しがあること

これを読書視点に落とし込むと次のようになる。

〈選書における3つのフィルター〉
1. 自分が理解できるレベルの内容であること
2. 信頼性が高いと判断できる根拠があること
3. 経年的に価値が下がりにくい内容であること

確かにこれはもっともらしい基準ではあるけれど、なんだか腑に落ちない。 結局は、目的に対する答えが書かれていそうなベストセラーや古典を読めってことなの?となってしまう。

けれども、「それでいいのだ」というのが本書の主張だ。 古典を読むことによる効用は3つあるという。

〈古典を読む理由〉
1. 古今東西変わらない普遍的な知識を学べる
ex.) 『孫子』で普遍的な戦略を学ぶ
2. 偉大な賢者から力を借りることができる
ex.) アウレリウス「自省録」から、運命に立ち向かう力をもらう
3. 究極の感性と思考に触れることができる
ex.) デカルト『方法序説』から、”疑うこと”の極限に触れる

目的に答えることを優先する「投資的選書」に対しては、このように古典やその道の第一人者から読んでいくという手法が最も効果的かつコスパが良いという。

自身のことを振り返ると、最近は投資的な読書をするにしても、古典からは遠ざかっていたと感じる。 アマゾンレビューなどを参考に本を買っていると、どうしてもベストセラーに目的の解を求めてしまう。 例えば目的とするテーマ選びが終わったら、”1冊は古典を混ぜてみる”ということを意識してもいいかもしれない。

直感的選書

直感的選書とは、知的好奇心にしたがった読書だという。 目的を達するための読書だけでも生きていけるが、それでは興味の幅を狭めてしまう。 ”面白いと思ったものにトライする”というスタイルも、読書にはあっていいはずだ。

私の最近の読書であれば、カズオ・イシグロ『クララとお日さま』や、山下賢二『ガケ書房の頃』などは「直感的読書」にあたるだろう。 小説やエッセイは、人の興味関心を既知の領域の外側へと広げてくれるものであるし、これぞ読書の醍醐味であると感じている。

個人的には投資的選書と直感的選書のバランスを1;1と考えている。 日々の課題や悩みが深まるほど投資的読書の割合が強まってしまうが、直感的選書の割合を維持して外へと好奇心を持ち続けることも忘れずにいたい。

アウトプットは「終わりの時間」を意識する

OUTPUT読書術なので、アウトプットに関するテクニックもたくさん書かれている。 中でも参考になった点をいくつかメモしておく。

付箋は3つに限定する

良書に出会った時、その本が赤線だらけ、付箋だらけになってしまうことがある。 その時は良いのだけれど、しばらく経って本を開くと、当時どのメッセージが心に刺さった部分が分からなくなってしまうのだ。 これを防ぐコツとしては、ペンと付箋の役割を分けるという方法がある。

ペン;著者にとって重要な箇所を明らかにする役割
付箋;読者にとって重要な箇所を明らかにする役割

特に付箋は「1冊につき3枚まで」に限定すると良いという。 確かにブログの章立ても3章ぐらいがスッキリする。 本のメッセージも3つぐらいに絞っておいたほうがあとで記憶に残りやすい。

アウトプットは「終わりの時間」を意識する

「先に時間を決める」とは、効率の良い人なら誰もが口を揃えて言うことだ。 「メメント・モリ」という言葉があるように、人の人生には時間という限りがある。 いくら良質な古典に出会えたとしても、それを消化することにばかり時間を使っていてはもったいない。 読書をして終わりではなく、そこから何らかのヒントを得て、行動してこそ意味がある。

「この本の要点整理は30分でやってみよう。」
「ブログの文章は2時間で書いてしまおう。」

最初に時間を設定する。基本だけれどこれがなかなか難しい。


今回は人気YouTuberでありファンであるアバタロー氏の著書を、タイトル通り「OUTPUT」してみた。 You Tubeチャンネルで取り上げられた本の選書理由など、具体的な古典紹介などもあるかと期待したが、本書はそういう方向性にはなっていなかった。

「You Tubeコンテンツの書籍版」のような続編が出ることも期待しつつ、また”ええ声”ヴォイスのチャンネルの方も引き続き楽しませてもらいたい。


岡本太郎の著作はもはやバフェット基準を満たす”古典”と呼べるかもしれない。


www.youtube.com

2021/9/18