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【愛好レシピ本5選】ステップアップのためのスパイスカレー読本

衝撃的なカレーレシピ本に出会った。
本格的なインドカレーが「だいたい15分」で作れてしまうとという。

東京神田の名店「エチオピア」でスパイスがギンギンに効いたカレーに打ちのめされて以来、約7年。 私は「いかに美味しいカレーをつくれるか」について、週末に家で格闘を続けてきた。 その過程で、何冊ものスパイスカレーレシピ本を、手にとっては試し、手にとっては試しを繰り返した。

本書は、その中でも「手軽さ」ではおそらく群を抜いているだろう。 約1時間ほどかかっていたが調理工程が、極限まで削ぎ落とされ「たった15分」に短縮されたのだから。

15分カレー

▲写真は管理人作。
本書の「基本のマサラ」に鶏もも肉と野菜を加えて炒め、香菜を添えた。 本当に15分でつくれてしまい、香り、苦味、辛味ともしっかり効いている。 玉ねぎを飴色に炒めない分、フレッシュな仕上がりだが、まぎれもない「スパイスカレー」だった。

ただしここでひとつ言っておきたいことがある。 「だいたい15分カレー」はイノベーション調理であるために、従来のレシピ本からは大きく外した調理法になっている。 独自路線で「究極の時短」を目指しているために、これを入門書とすると、かなりトリッキーな方法を先に身につけてしまうことになるのだ。

そこで本記事では、私が重宝してきたカレーレシピ本を振り返りながら、どんな手順を踏めば「基本のインドカレー」から着実にステップアップして自在に「スパイスカレー」を作れるようになるか、5冊のレシピ本を紹介しながらまとめてみたい。 *1

STEP1 : 基本的なインドカレーの調理手順を知る

市販のカレールーを使わず、スパイスから調理するカレーを作ろうと思い立った時に、まず手に取ったのがカレー番長こと水野仁輔さんの本だった。

【1冊目】3スパイス&3ステップで作る はじめてのスパイスカレー(水野仁輔)

この本の魅力は、玉ねぎの炒め方とスパイスの調合について、最初にマスターすべき事項が、写真を交えて懇切丁寧に掲載されていることだろう。 飴色になるまで玉ねぎを炒めるという最初の関門を、写真を参照しながら確認していくことができる。

本書の手順通りに「カレーのもと*2」ができたら、あとはお好みの肉や魚、野菜と炒め合わせれば(よほど変わった食材を混ぜない限り)立派なスパイスカレーが仕上がる。はじめて手順通りに実践してカレーが完成したときは「こんな私でも、お店で食べるようなカレーが作れるのだ!」と感動したものだ。

3スパイス(ターメリック・カイエンペッパー・コリアンダー)を買い揃えたら、 まずは3ステップ(切る、炒める、煮る)を覚えてはじめてみよう。

STEP2 : 北インドカレーと南インドカレーの違いを知る

次に手に取ったのは、東銀座の名店ナイルレストランのナイル善己さんが書かれた入門書だ。

【2冊目】「ナイルレストラン」ナイル善己の やさしいインド料理(ナイル 善己)

3スパイス&3ステップで基本的な調理をマスターすると、もう少し本格的なインド料理に挑戦したくなる。 そこで現地のインド料理に忠実なレシピを知りたいと思い、インドで修行された経験のある著者の入門書を読んでみた。

本書の魅力は、北インドカレーと南インドカレーの違いについて、明確な違いを解説している点だろう。 具/ホールスパイス/香味野菜の切り方/コク出し&味わい/とろみ(グレイビー)という5つの観点から比較している。

日本人のイメージするインド料理店で食べるカレーといえば、鶏肉マトンの肉カレー+ナンという「北インドカレー」ルーツが主流だった。ところが、魚介・野菜中心のカレー+インディカ米を使った「南インドカレー」というジャンルもあるという。レシピを眺めていて、使っている食材が「あっさりシンプル系」で、日本食にも通ずるものを感じたのだ。

「南インドカレー」は健康食としても魅力的かもしれない。

そう思い立ってからは、健康食としての南インドカレーを追求してみた。 渡辺玲氏の「カレーな薬膳」はその中で出会った好著だ。

【3冊目】カレーな薬膳 (渡辺 玲)

写真が少なく、ほとんど文章のみで説明するレシピ本なので、初心者向けではない。 けれども、この本の通り調理してみると、あら不思議。シンプルな素材で実に美味しく仕上がる。 医食同源の考え方を元に、動脈硬化/高血圧/痛風の予防/アトピー対策/便秘解消など症状別に章分けされている点がおもしろい。

調理が簡単で美味しい。マサラを冷凍保存すれば、平日でも短時間調理可能。スパイスは健康にもいい。

これほど「いいことづくし」な料理は他にない。カレーは完全栄養食だ!!

このあたりから、気づけば見事に「スパイスカレー沼」にハマっていた。

STEP3 : インドカレーを日本の家庭料理化する

近年のスパイスカレーブームが訪れてからは、レシピ本の出版も飛躍的に増えた。 この背景にあるのは、「インドカレーが日本の家庭料理化したから」ではないかと考える。

火付け役となったのは、印度カリー子さんだろう。

【4冊目】ひとりぶんのスパイスカレー(印度カリー子)

この本を書店で見かけた時、絵本のようにパラパラとめくるだけでカレー調理がわかってしまうような、「とっつきやすさ」に衝撃を受けた。 同時にメディア露出も増えていって、スパイスカレー界の新たなスター誕生を予感させた。

インドカレーはマニアのための料理ではなくなるかもしれない。

従来のインドカレーのレシピ本では、4人〜5人分を作ることを想定して考案されたレシピが多かった。 けれども単身世帯が増えるご時世、「そんなにたくさん作っても一人で食べきれないよ!」と思っていた人もいたに違いない。

土日にまとめてグレイビーさえ作っておけば、家族分はもちろんのこと、一人分のカレーでもあっという間に作れる!

印度カリー子さんは、30〜40代の主婦の方にターゲットを絞り、簡単なスパイスキットの販売から始めたという。 その戦略は見事に成功したのだ。

冒頭に話を戻す。

エリックサウス稲田 俊輔さんの「だいたい15分カレー」は、印度カリー子さんの「ひとりぶんスパイスカレー」をさらに時短料理に仕上げている。 時短の時短、つまりは「究極の時短カレー」なのである。

【5冊目】だいたい1ステップか2ステップ! なのに本格インドカレー(稲田俊輔)

冒頭に紹介した本とは別に、最近出版された2作目を挙げておく。 こちらでは、なんとバスマティライスをジップロックでレンチンして炊くという荒ワザが紹介されている。 日本家庭の食卓にも、やがてはビリヤニが並ぶ日が来るのだろうか。調理法の進化は留まることを知らない。


「スパイスカレー」は、今後も優秀な料理人たちによって、進化し続けることだろう。 けれども「究極の時短カレー」から入る前に、知っておくと広がる世界もある。 そこで今回は、私が愛好しているレシピ本たちをまとめて紹介した。

最近では「レシピ本」など買わなくても、You Tube動画で検索すれば著名な料理人が無数のレシピを紹介してくれている。 けれども、私はあえて「レシピ本」をもとに料理を追求する道にこだわりたい。

本を通じて料理人の主張を知れば、料理はもっと楽しくなるはずだから。

2022/2/11

番外編:スパイスはどこで調達するか?

スパイスは、上野アメ横の大津屋で調達することにしている。 東京に住んでいた頃は実店舗に買いに行っていたが、まとめて買えば送料もかからないので、ネット通販もおすすめ。
とにかく種類豊富で安い。スパイスからダールまで、インド料理の食材はだいたい揃う。
ナイル商会のカレー粉が激推し!!

▼アメ横大津屋 スパイス・豆の専門店

https://www.ohtsuya.com/

▼アメ横大津屋 スパイス・豆の専門店 - 楽天市場

https://www.rakuten.co.jp/uenoohtsuya/

*1:「スパイスカレー」と「インドカレー」の呼称の使い分けについて補足しておく。「インドカレー」はナイル善己氏が説明されているように、「北インドカレー」「南インドカレー」など本場のインド料理を由来とするもの。一方で「スパイスカレー」は、インドカレーやスリランカカレーのエッセンスをもとに、日本の料理人がアレンジを加えた創作料理。 インド料理専門店で出されるカレーが「インドカレー」、インスタ映えするような彩り豊かなワンプレートランチ風のカレーを「スパイスカレー」と私はイメージしている。この分別によると、家庭で作る時短マサラカレーは「スパイスカレー」ということになる。

*2:「カレーのもと」は欧風カレーにおけるカレールーのようなもので、「マサラ」や「グレイビー」と紹介されている場合もある。ナイル善己氏は「万能マサラ」としている。印度カリー子氏は、「グレイビー」としている。