街行き村行き

明日あたりは、きっと山行き

【忘れられた歴史的フェスのドキュメントをみた】サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)

ブラックミュージックのドキュメンタリー映画が全国ロードショーなんて、いつぶりだろうか。 わざわざ京都や大阪に出向かずとも近所で上映されるということで、サクッと観に行ってきた。

時代はウッドストック・フェスティバルの行われた1969年夏。ジミヘンがアメリカ国家を自慢のストラトでかき鳴らしていたころのこと。 ニューヨーク・ハーレムでは黒人ミュージシャンのスターたちが集結し、30万人を動員するとんでもない無料開放フェスが行われていた。

フェスの名は「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」。
監督は「クエスト・ラブ」。

これだけの内容で、音楽ファンとしては見過ごすわけにはいかなかった。

▼映画チラシ

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スライ・ストーンとニーナ・シモン

まずは予告編をみてほしい。 ニーナ・シモンのポエットリーディングに対して、呼応する観客たちが異様な熱気を帯びている。

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【発見の秘訣は情緒のバランス】春宵十話(岡 潔・著)

岡潔という関西出身の世界的数学者を知ったのは、つい最近のこと。
特に代表的なエッセイである『春宵十話』は、本のレビューサイトなどでもよく取り上げられていて、天才数学者の書くエッセイとはどのようなものだろう?と興味がわいた。 和歌山県橋本市生まれ、晩年は奈良で過ごしたということで、今の私の住環境にも近く、親近感もあった。
1963年発行と半世紀以上前に書かれた内容だが、リズムよく読みやすく、また難しい仏教用語と独特の比喩表現とのギャップが妙に「カッコいい」とも思える随筆集だった。

学問は頭でやらない。情緒の中心でやる。

「人の中心は情緒である。」

本書で何度も繰り返し述べられる言葉である。

情緒という言葉は普段から使うことがないのでイメージしにくいが、情緒不安定という言葉は今でも使うことがある。 そこで私は、情緒を「情緒不安定の逆の状態」と理解してみることにした。

つまりは、「心が平穏を保っていて、その人らしさが発揮できている状態」と考えた。

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【ファミリー経営を長期戦略ベンチャーと考える】星野佳路と考えるファミリービジネスの教科書

星野佳路と考えるファミリービジネスの教科書
(小野田鶴、日経トップリーダー 編集・構成)


「ファミリービジネス」という経営学上の用語を聞いたことがあるだろうか。 私は恥ずかしながら本書を読むまでその存在を知らなかった。「ファミリービジネス」とは、日本語で言うならば「同族企業の経営」という意味に近い。

ファミリー企業というと、星野リゾートの全身である星野温泉旅館のような、いかにも家族経営のビジネスを想像してしまう。 けれどもオーナー経営者が率いる企業という視点で見てみると、日本の全企業数の96.9%がファミリー企業であるという推計もある。つまりは日本企業の9割以上はファミリー企業なのだ。

では、ファミリー企業と非ファミリー企業の違いは一体どこにあるのだろうか。

星野リゾートはモデル転換に10年かかった

従来の日本のリゾート事業者は、自分で「所有」する土地を、自分で「開発」し、自分で「運営」するという一人三役のパターンで経営してきた。けれどもバブル崩壊を経て、このパターンでは限界があるとみた星野さんは、1992年に「運営特化」という戦略を打ち出し、リゾート運営に特化した経営を目指すようになる。

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【ナラティブ・アプローチ実践】やる気を引き出し、人を動かす リーダーの現場力(迫俊亮・著)

全国に300店舗を展開する靴とバッグの修理店「ミスター・ミニット」の社長である迫俊亮氏の経営奮闘記。 ベンチャー企業のマザーハウスで経験を積み、ミニット・アジア・パシフィック社に入社。29歳で代表取締役社長に就任したときの経営状況は10年連続右肩下がりと散々たるものだった。そこからどのように立て直しを行ったのか。 答えはタイトルの通り、「リーダーの現場力」にあったのだ。

ナラティブアプローチの実践本

なぜ本書を手にとったかというと、『他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論 』(宇田川元一・著 / NewsPicksパブリッシング)で紹介されていたからである。

「他社と働く」を読んでナラティブ・アプローチの骨子は学んだつもりだったが、いざ仕事の現場に立ってみると、「では具体的に何をすればいいの?」という実践の部分で疑問が解消されない。 そこで、実際にビジネスの現場で奮闘している人の本を読みたいと思ったわけである。

迫さんは、いったいどのようにして、「組織の溝に橋を架ける」ことができたのだろうか? 本書にはそのヒントとなるアイデアがあふれていた。

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【豪華新装版】センス・オブ・ワンダー(レイチェル・カーソン著 上遠恵子・訳 川内倫子・写真)


レイチェル・カーソンの晩年の名著「センス・オブ・ワンダー」が、新潮文庫より装丁を新たに出版された。

カーソン氏の詩的な表現と呼応するように川内倫子氏の写真が散りばめられ、より日本人の感性で本書が味わえるようになった。 また巻末には福岡伸一氏をはじめ、「私はどのように愛読してきたか」を語る4人のエッセイが掲載されている。 なかなか至れり尽くせりな文庫本である。

「センス・オブ・ワンダー」とは、”神秘さや不思議さに目をみはる感性”のこと。

子どもの頃は誰もが授かり持っていたのに、大人になるにつれて次第に失われていく感性。 私たちが置き忘れてきた「センス・オブ・ワンダー」を取り戻すには、いったいどうすればよいか。

私自身の個人的な体験から、振り返って考えたい。

林業をはじめて「センス・オブ・ワンダー」を取り戻す

林業をはじめたことをきっかけに、今年から森の自然に触れ合う機会が増えた。

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【人気YouTuberの選書術】OUTPUT読書術(アバタロー・著)


低音ボイスの”ええ声”で名著を解説してくれる大好きなYou Tubeチャンネル「アバタロー」さんの初の著書。 私が初めてこのチャンネルに出会ったのは、確か岡本太郎氏の「自分の中に毒を持て」の20分解説動画だったと記憶している。

まるで岡本太郎が乗り移って語りかけてくるような情熱的な朗読に心打たれ、すぐに書店に本を買いに行ったことを思い出す。 そのアバタローさんが本を出されたということで、これは読まなくてはと購入に至った。

自己肯定感を上げる OUTPUT読書術

自己肯定感を上げる OUTPUT読書術

  • 作者:アバタロー
  • クロスメディア・パブリッシング(インプレス)
Amazon

著者が他の幾多の本解説YouTuberと違っている点は、「選書」にあると思っている。

解説で取り上げられる本は、古今東西の名著を基本としながら近年出版されたビジネス書の回もあり、「選書の基準」がわからなかった。 本書でその謎が解ければと思い、読み始めた。

読書は食事である

まずはじめに、読書の心得とは食事の心得のようなものと説かれる。

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【タイムリーな話題作を読む】クララとお日さま(カズオ イシグロ・著、土屋政雄・訳)


カズオ・イシグロ、ノーベル賞受賞後の最新作。 4月の発売以来、本屋で見かけるたびに、ひまわりと女の子の可愛らしい表紙に名作感が漂っていて、ずっと気になっていた。

テーマは人工知能とヒューマニティということで、著者がどんな未来を描いてくるのか、ワクワクしながら本書を読み進めた。

物語は、クララというAF(Artificial Friends; 人口親友)の一人称語りで進む。 ”「ショートヘアで、浅黒くて、服装も黒っぽくて」、親切そうな目を持つフランス人みたいなAF”であるクララ。 彼女は、果たして病弱な女の子ジョジーを救うことができるのだろうか。

人工知能というと、”感情を持たない存在”としてのイメージが先行するが、クララは人を観察し学習するほどに感情を豊かにしていく。 人が人工知能に求めるものは、単なる人間の代替としての”機械”から、心を癒やすための”親友”のような存在に進化していくのだろうか。

人工知能ロボットに劣等感情はあるか?

本作は敬体(ですます調)でおとぎ話のように語られる。 その体裁とは裏腹に、ディストピア小説さながらの、格差が拡大した残酷な人間社会模様も描かれる。

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